夕顔 Vo. 5

「こんなとこからよく、ケーキなんか運んで来れれてたよね。」

ものすごい根性だ。あのケーキたちは本当にさりげなくケースのなかに並べられていたのに。
そりゃあ繊細な生クリームやデコレーションのケーキを持って来れないわけだ。

酔いもピークに達したころたまたま大きな集落があったので、休憩ついでに車から降りた。
すでに村にははいっている。
さすがに観光名所だけあって、梅の木が低い山々にきれいに植えられている。
街道沿いには「梅ジュース」と黒々と墨で書かれた、風にたなびく白抜きの旗。
なんだかおそろいしいほど人気がない。
と思ったとき、細い小路から一人の老婆が出てきて、バス停のベンチにどっかりと腰をおろした。えんじ色のハンドバックからバス定期がのぞいている。
左足をひきずっているあたり、町の病院にでも行くのだろうか。
「ちょっと淳哉、響さんちこのへんか聞いてみてよ。」


「ああ、尾澤さんち行かはんのか。それやったら、そこの石の階段あがっていったとこ。
みち、急やしお嬢ちゃんの靴やったらちょっとしんどいんちゃうか。
車はそのへんの道の広いところでも止めときい。
いつもそうしてはるから。」

お父さんもいつもここに車を止めているのだろうか。